師匠は嘘をつかない

 

 

 

 

 

 

 

帽子の師匠・小林時代(ときよ)、御歳90。元気です。いまだに制作意欲旺盛です。数年前に転んで腰を痛めてからは遠距離の外出は減ったものの、それでも1階2階のアトリエと3階の自宅を階段で上り下りされています。足腰のためにはバリアフリーではなくバリアアリー(有り)も必要なのかもしれません(下手なジョーク、失礼しました)。
基本は生徒自身のテーマで帽子を作るのが師匠の帽子教室。師匠が見ていて「おや?」と思った時には「そこはああだこうだ」とアドバイス、そしてもちろん困った時に質問すれば場合によっては改めて基礎から丁寧に教えてくれる。写真はパターンをどうとるかを指導しているところです。

 

 

 

 

 

 

 

メーカーさんの量産の帽子は(売らないとなりませんから)至って真面目に仕事をされていますが(当然です)、ご自身の作品はどんどん自由奔放になってきました。マジックで大胆に塗ってみたり、帽体をザックリ切って縫い合わせてみたり、モリモリ盛ってみたり。良い意味で子供らしい無邪気さや屈託のなさが溢れ出ているように思います。

ただ師匠の若い頃からを長年知っている大先輩の姉弟子の中には、帽子のテクニックを自由自在に使いこなし贅沢かつ繊細な素材使いをしていた頃を師匠の頂点と思っている人もいるようです。最近の天真爛漫な作品や腰が少し曲がってきた師匠の姿を帽子のショウで見せるのを(そして見るのを)あまり喜ばしく感じられていないらしいことは、噂ではありますが耳に入ってまいりました。

師匠自身は帽子のショウをとても楽しみにしています。高齢にもかかわらず旺盛な創作意欲、そして今現在の姿でお客さまの前でご挨拶する姿は私にとっての励みです。
柚木沙弥郎氏も昨年は「日曜美術館」の映像で96歳の姿を隠すことなく私達に見せてくれました。その姿に感動すら覚えたのは私だけではないはずです。巨匠マチスは晩年は切り紙で単純で抽象的な形で豊かな画面や空間を表現しました。フォヴィズムからキュビズム的表現を経てオリエンタリズムの影響を受けたマチスが最後に行きついた技法です。稚拙になったのではない、歳を重ねてますます大胆に自由になった。素晴らしい。
もちろん、より一層の高度な技術を駆使し、緻密な作品を発表され続ける方もいらっしゃいます。それもひとつのかたちです。
表現される形は様々あれど、私は歳を重ねても新鮮で褪せることない好奇心や向上心を持ち続け今のご自身をしっかり受け入れている人生の(そして仕事の)先輩方を敬服します。師匠の姿は嘘をつきません。私もそのように歳を重ねていきたいと思っております。

2019年2月2日(土)
「帽子のファッションショウ」
六本木・国立新美術館 1 階展示室1A 第31回 平泉展 会場内
午後2時半スタート(予定)
師匠・小林時代やアトリエで学ぶ仲間有志と一緒に、恒例の帽子のショウを企画開催いたします
帽子ショウ前のプログラムが白熱し毎年スタート時間が遅れ気味なこと、ここでお詫び申し上げます

野村あずさ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

コメントする