小林時代の言葉4

春夏の催事が終わり久しぶりに帽子教室に行きました。教室といっても特別なカリキュラムがあるわけではなく、もっぱら私達の自由な制作のアドバイスを師匠にいただくのが中心です。皆でお昼休憩のときに師匠がこんなことを言い出しました。

「歳がどうのこうの言っても仕方ないんですよ、どうせ人間 歳をとるんだから。歳をとると悲観的なことを言う人も多くなりますけどね、歳や世の中のせいにしないで、楽しく前向きに、感謝の気持ちを忘れないで。後ろ向きになってはいけません。」

帽子の師匠・小林時代(ときよ)、御年90。
師匠からは帽子制作についての知識経験はもちろん、帽子で仕事をするにあたっての「売れる売れない」等のシビアな助言もどれほどいただいたことか。それだけでなく長い人生の舵取りというのでしょうか、生き方や考え方を身をもって見せて下さいます。その師匠がいまだご健在でいらっしゃる。恩師と呼べる方が存在するというのは本当に有難いことだと思います。話は続きます。

「作品を作る時に〆切間際になって『何か作るか』ではダメですよ。いつもアンテナを張って感性を磨いていれば、作りたいものが次から次へと湧き出るような状態になるんです。」

師匠は既に来年年明けの帽子のショーのための作品も作り始めています(普段はメーカーさんとの量産の帽子の仕事もしています)。耳が痛い弟子。気を取り直して少し食らい付き、師匠の制作のヒントについて伺いました。

「ショーのときはなおさらですけど、テーマを決めましてね。そしてそのテーマを頭に置きながら毎日過ごしていると、ある景色やものを見たときにその印象や細部が自分の経験や思い出に重ね合わさるときがあるんです。その時に感じた情緒を思い浮かべて、イメージを人生に例える。詩的な感情からさらに季節感や素材感が呼び起こされて帽子に生かされてくるんです。」

師匠、いきなり
「やさしさが あふるるほどの さくら花」
と歌を詠んで

「春と秋がいいですね、詠いやすい。色が美しく広くイメージが考えられるから作りやすい季節です。夏と冬はそれに比べると少し限られるような気がしますね。」

確か85歳の誕生日の時でしょうか。
「100歳まで仕事が出来れば十分だと思っていましたけど、気が付いたらあと15年しかないじゃないですか。それでは少し慌ただしいので105歳まで延ばしました。」と大真面目に語っていました。
たぶん今では110歳に延長されているはず。どうぞいつまでもお元気で、歳を重ねてもますます旺盛な仕事っぷりを私達に見せて下さい。

野村あずさ

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