お客さまと作り手の付き合い

知人に「帽子スタイルクリエーター」がいます。「似合う帽子を見つける」「帽子を素敵にかぶる」提案がその活動。その彼女が帽子のオーダーの仕事を紹介してくれました。

オーダーのお客さまは自身の好みのみならず生き方のスタイルまでもしっかりお持ちの方、もちろん帽子のリクエストもいい加減ではありません。彼女からお客さまの意向が私に伝えられ、そして作ったのが最初の写真の帽子。可愛らしい雰囲気の帽子の完成!…と思ったら「イメージと違います」。
二人で大慌てで再度お客さまのイメージ確認。ここでお客さまと直接やりとりした彼女はとても気を遣ったことでしょう。お待ちいただいているのですからとにかく早くしなければ!イメージが共有できたところで再度制作、今度は間違いないように制作途中の写真を見てもらいました。
「もう少し つばの傾斜をきつく上げて下さい」
はっきりご希望を伝えて下さるお客さまで助かります。
そして修正を加えて再確認、OKがでたところで仕上げて納品の運びとなりました。

イメージ違いに納品が遅くなるという、お客さまにとっては少々嬉しくない時間があったにもかかわらず大変喜んでいただけた
ので、まずは一安心。しかもこの形が非常にお好みに合ったようで、形違いで春夏バージョンも欲しいとおっしゃって下さっているとか。ものつくりとして本当に有難い限りです。

オーダーはお客さまのイメージ以上のものをお届けして、はじめて魅力を実感していただけるもの。ましてやお客さまと作り手との間に良い関係が築けて続いていくとなればその価値は倍増するかと思います。

催事の際に大半のお客さまとはその場限りのご縁となってしまいます。しかしながら時々はお客さまから連絡いただきご縁が続くことも。もちろんベタベタした関係ではありません、催事のご案内を差し上げご都合が合えばまた催事に足を運んでいただきご挨拶する。それだけでも、私のことを、私の帽子を忘れないで下さっていることに心より感謝致します。

建築家・隈研吾「建築家、走る」を読んでいました。
建築と帽子ではプロジェクトの期間や大きさ、景観や後世に与える影響など比べようもありませんが(比べる土俵にも上がれない!)、この中に今の私の気持ちに非常に響く隈氏の言葉がありました。
「施主と建築家は、場合によっては非常に長い付き合いになります。十年、二十年がたったときに、施主から「あいつとは口も利きたくない」と、思われたくなんかありません。建築家の務めには、建物の設計だけではなく、十年後、二十年後も施主と互いにいい関係を築いていくことも含まれます。」
作った帽子が私の見えないところで売りっぱなしではあまりに寂しい。自分で作って自分で店頭に立ってお客さまに帽子を手渡すその先に、お客さまと作り手の豊かな関係をひとつでもふたつでも繋げていけますように。

野村あずさ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

コメントする