マカロンクロシェのデザイン

マカロンクロシェを見てこの帽子にあまり興味を持たれないお客さまも当然いらっしゃいます。置いてある形はマカロンとも言えるけれど大判焼きにも似ている(写真のマカロンクロシェになると実に質素、フランス製シルクウールなので素材は抜群なんですけれど)。奇抜でもないし、カワイイ感じでもない。

他にはない形なので「わかりづらい」帽子です。どうやって被るのか、被ったらどうなるのか。おそらくそのあたりがネックになっているのでしょう。そのハードルを少しでも下げるように被り方を紹介したチラシを用意したり、私が店頭にいるときは実際に着用して見ていただけるようにしていますが、それでもいままで経験のない帽子ですから、マカロンクロシェを見たお客さまはここで「興味」と「拒否」のふるいにかけられる。

このマカロンクロシェは不親切です。この帽子は見ただけでは良くわからないところに特徴があると言っても良いかもしれません。試着の際には時間をかけて被り方をご説明して、お客さまがご自身でアレンジ出来るようにレッスンもします。パッと見ただけで「こういう帽子だ」と理解できて素早く買っていただくような帽子ではないのです。
しかし店頭で手に取って下さった方は、この帽子に「これは何かしら?」という好奇心と何かしらの魅力を感じたのに違いありません。そして「無愛想にも見えるのに自分のセンスでいくらでもアレンジ出来る」という面倒なところを喜んで下さるのです。

そうこの帽子は見た目は無愛想、地味。シンプル…いや、この場合はミニマムと言った方がいいかもしれませんね。
シンプルとミニマム、似たような印象の言葉です。区別するとすれば「余計な物を何も足さなかったものがシンプル」「どうしても必要なもの意外をそぎ落としていった結果がミニマム」となるでしょうか。
マカロンクロシェの特徴は折り曲げたつば、そこだけは譲れない。それ以外をそぎ落としたらこのデザインになりました。
この帽子を発表したのは2005年、若干の寸法補正は重ねましたがほぼ同じデザインで今まで続いています。シーズン毎に新しいデザインを出し続けるファッションの中で、同じデザインを継続して出し続けているのは異端かもしれません。

美術に携わる仲間は(かつての私も)「展覧会」というかたちで作品を発表します。1〜2年、もしくはそれ以上の期間を準備に費やし作品を作り溜める。一方ファッションになると半年毎に新しいデザインを出し続けるのが通例。新しいものをどんどん出して刺激を与えて飽きさせず、買っていただくため。「新しい=売れるもの」という構図。
果たしてそれが正解なのかどうか。
ファッションはじっくりとクリエイションに向かい合ってはいけないのか?
お客さまは他にはないデザインが欲しいのではなく、他にはない満足感が欲しいのでは?
このマカロンクロシェのデザインは既に12年。変わらないデザインがあっても良いのでは?

そんな迷いを抱える時に、グラフィックデザイナー 佐藤卓 氏の言葉が私の心にスッと入ってきました。ミニマムなデザインのマカロンクロシェをどう豊かに展開していけるか、あれこれ考えながら12月の催事に向けての準備を進めます。

「人には、想像力の余地がある」という前提が考えられていないデザインだと
すべてを説明してしまうというか、
想像の余地のないやりすぎのものになるのではないでしょうか。
ほぼ日刊イトイ新聞「日常のデザイン」佐藤卓展 第2会場

野村あずさ

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