甘い帽子・2
本体が出来上がって飾り付け。いつもでしたら頭まわりに飾り付けるのが常でした。しかし今回は「上へ、上へ」視線が伸びていくような帽子にしたいと強く思っていました。少しラフスケッチのように飾りを置いてみましたが自分の中でゴーサインが出ません。
なんとなくのイメージがクリアになっていないのです。
自分がどんなシルエットの、どんな雰囲気の、どんなボリュームの、どんなイメージの帽子を作ろうとしているのか?
あれこれとイメージソースを探っているうちに、映画「マリー・アントワネット」(ソフィア・コッポラ監督)に辿り着きました。
やわらかなパステル調、女性的で可愛らしいデザインが特徴のロココ様式です。豪華なドレスや高く盛り上げた髪型や奇抜な髪飾りといった具体的なものでは「なく」、あくまで全体に流れるイメージ。
そして映画の中のファッションではなくお菓子の数々に興味を覚えました(史実としてはマリー・アントワネットが好んだのはブリオッシュやクグロフといった、今の私達からみれば見た目は華やかというよりはノスタルジックなものだったようです)。
ということで帽子。
幼児的な単純な可愛いらしさではなく、綺麗で深みのある可愛さを目指します。最初はピンクの同系色のみのつもりでした。が、それだけでは浅い感じがしたので水色やアイボリーなどを加え、少し落ち着いた色合いでまとめました。
出来上がったのはこんな帽子。この記事の最初の写真に比べるとフォルムにぐんと甘さが出たように思います。高さも上々。
ちなみにロココの語源は「ロカイユ(岩)」。ロココ以前のバロック時代、庭園にグロット(人工庭園洞窟)を作るのが流行、かつてはベルサイユ宮殿にもあったそう。その「人工庭園洞窟」は岩でゴツゴツした自然の洞窟ではなく、貝殻やサンゴや美しい石や鏡で装飾され、無数の噴水が吹き出す仕掛けもあり今で言う「テーマパークのアトラクション」のような、まるで異世界に迷い込んだかのような幻想的な雰囲気を味わえる施設だったそうです。そのグロット(人工庭園洞窟)の装飾された岩に由来したものがロココ様式。
話が逸れましたが、帽体につけた岩の表面のようなディテールもここにきて偶然にもロココ語源の「岩」に沿う結果となりました。
しかしここにきて思いもよらなかったことが。意気揚々と被ってみたら高さを出したのが仇になり、身体に対しバランスが悪い。被り心地は万全です、安定して被れます。あくまで見た目、少し重心を下に持ってくればバランスが良いのに。上部の花が主役ですからそれを殺すような飾りは必要ありません。
それは瞬時に思いつきました、リボンだ!
顎の下で長くリボンを結べば軽く見た目のバランスが良くなります。しかも視線が下にも流れるので実際よりも大きく見える。
水色のグラデーションのリボンを付けて、そして甘いお菓子をイメージした帽子が完成しました。私が帽子をどんな風に考えながら作っているか、それを少しでもおわかりいただけたでしょうか。
これは帽子のショウでご覧いただけます。
2019年2月2日(土)
「帽子のファッションショウ」
六本木・国立新美術館 1 階展示室1A 第31回 平泉展 会場内
午後2時半スタート(予定)
師匠・小林時代やアトリエで学ぶ仲間有志と一緒に、恒例の帽子のショウを企画開催いたします
帽子ショウ前のプログラムが押して毎年スタート時間が遅れ気味なこと、ここでお詫び申し上げます