アシンメトリーを被る・トーク帽2

トーク帽は黒と薄紫の2色を作りました。同じ形で色違いではあまりに芸がなさ過ぎるので、薄紫のほうは少し深めのアシンメトリー。そうすることでクラシックな印象がモダンになったと思います。
じつはこのトーク帽は春先に作った帽子の秋冬バージョンということでお願いされました。
仕上げの段階での飾りはお客さまに確認しながらの作業ではありましたが、リクエストは色だけでほぼお任せのフルオーダー。非常なプレッシャーでもありました。

私は東京国立近代美術館工芸館でガイドスタッフをしています(仕事に支障がないように、主に帽子のオフシーズンに集中しての活動です)。そこで先日からスウェーデンを代表するデザイナー・陶芸家のインゲヤード・ローマン展が始まりました。ガイドをするにあたってはかなりの準備を要します。大変ではありますが今回は特に「デザイン」を深く掘り下げる展覧会なので、自身にとっては非常に充実した勉強の時間になりました。その準備段階においてインゲヤード・ローマンと日本の木村硝子とのコレクションを調べている中で、彼女のこのような言葉を見つけました。

(ラインナップに関しては)今回は、特に何も決まっていなかったの。木村社長に「ノーコンセプトで好きにやっていいよ」と言われたことが、デザインするときの贅沢な悩みだったわ(笑)。彼は常に、「自分の作りたいものを作るべき」と言う信念の方だと伺っていたのですが、アーティストの才能が自由に開くことを心から楽しむタイプなのね。「ものづくりとはそうあるべき、それでこそよいものができる」という思いが根本にあるのでしょう。ビジネスはいろんな制限がありますけど、できることなら自由にモノづくりをしていきたい。だから嬉しかったわ。
ふむふむ、木村硝子店のなかまたち。#07

自身に重ね合わせて「はっ」としました。
クライアントであるお客さまは私のクリエーションが気に入って、オーダーを下さったことには間違いないでしょう。もしそこに「私が作りたいものを作ることで可能性を最大に引き出せたら」という気持ちを持って下さっていたのだとしたら。

インゲヤード・ローマンは70歳過ぎても新しい素材、新しい仕事に積極的に取り組んでいます。「課題(もしくは難題)は自分を成長させる」との彼女の言葉はオーダーをいただいた私の気持ちに非常に寄り添うものでした。
今回のトーク帽でオーダーに取り組む考えが少し変わったように思えます。お客さまに喜んでいただく帽子を作るのは当然のこと、そしてそこに私のクリエーションを最大に発揮出来れば、その帽子は明らかにお客さまと私とのコラボレーションになるのです。

野村あずさ

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