誰のための帽子?

IMG_0716「どうして帽子を被っているのですか?」と尋ねられたら「好きだから」としか言いようがありません。あとからあれこれ理由はつけられますが、まずは「好きだから」。
好きだから似合う帽子を被りたいし、似合ってるなと思えば気持ちがいい。ちょっと自信がつく。
特に今は帽子に携わっているわけですから、帽子は私の名刺代わりにもなります。「ファッションは自分がどう見られるかデザインすること」であれば、帽子は私がどういう人かを表す小道具、いや、必需品。

すると「誰のために被っているのか?」と聞かれれば「自分のため」ということになるのかな。「帽子を被ると自分になる」演出として。
加えて帽子は実用的機能も大きい要素…日除けはもちろん、寒い時にすっぽり帽子を被ってると格段に暖かい。小雨だったら帽子被って走ってしまえば傘も要らない(我家は駅近)。

とはいっても装う以上は「誰かの視線」を気にすることもあるわけで、出来れば本人が「いつもより綺麗」と思ってうきうきしているだけではなく、その「綺麗になった変化」を誰かが気付いてくれればなお嬉しい。恋人でも夫や家族でも、友達でも、接客されてる相手でも。
特に近い人が自分に無関心だったらやはり寂しいし、興味を持ってくれたほうが嬉しいと思うような気はします。
帽子の販売で店頭に立っていると買い物にいらしたご婦人のお友達同士やご夫婦にお会いします。お友達同士は試着すると「あらー、それ似合うわよ」「こっちの方があなたらしい」、「いいじゃない、それ買いなさいよ」と販売員の台詞まで代弁して下さる方も(ありがとうございます)。しかしご夫婦はなかなか難しい、奥様のお買い物に興味を示さないご主人が結構多い。奥様が試着して「どうかしら?」とご主人を見ても「わからないよ」「好きにすれば」、中には表情で「ダメダメ」言うようなことも。私の帽子仲間が接客しているときに「君は何を被っても似合うからね」と奥様に言ったご主人がいらっしゃったそうですがこれは非常に稀なケース。

確かに奥様は「自分に似合う帽子」をお探しになっているのですから、ご主人には関係ないのかもしれません。でもその日ご主人とお出掛けするために奥様は服を選んでお化粧してるはず。奥様はきっとご主人に「綺麗だね」「似合うよ」と言って欲しいのではないかしら。
帽子をお探しになる恋人達は、試着姿の彼女を彼はちゃんと見て「似合うよ」「こっちがいいかな」とアドバイスしてますよ。
とにかく男性が女性を誉めて喜ばせる、そうすれば「この人が喜んでくれるなら」とお洒落を楽しむ気持ちになるのではないでしょうか。新しい服や帽子や靴を買ってみたり、美容院に行ってみたり。もしかすると夕食が豪華になるかもしれない、夫婦でデートに出掛けることが増えたりするかもしれない。
ということは少しづつ消費が増える。日本の景気を良くするのは男性の甘い台詞にかかっているのです。あれ?そういう話だったっけ?

不思議なもので自分が着飾っていても、自身で見ることが出来るのは前の一部分。当然背中や頭は見えません。鏡に映した自分の姿はもちろんですが、第三者からの認知で自身のイメージを補完調整することもあるでしょう。
そうすると前述した「自分のために被っている帽子」とはいえ「見る⇄見られる」という構図も無視することは出来ないと思うのです。

息子達の七五三は家族揃いの帽子で祝いました(ポケットに手を入れて行儀が悪い母親ですね)。後ろの二人が5歳を迎えた次男と8歳の長男、2014年のことです。
これは明らかに「自分がどういう人でどう見られたいか」…に家族を巻き込んだケース。華やかな晴れ着でいっぱいの明治神宮で一番地味な家族でした。私が帽子を作ってるなんて誰も気にするわけもなく、完全な自己満足の巻。

野村あずさ

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