フェルト帽体ついてきちんと知らない人は少し損している
秋冬の帽子で欠かせないのが「帽体」と呼ばれる素材。一般的にフェルト帽といえばおわかりになるでしょうか。実はその素材もピンからキリまで、良いものは材料だけでもかなりいいお値段なのが作り手泣かせで悩ましいところです。
手頃なものは羊毛からできた「ウールフェルト」
このウールフェルト帽体は、安価で染色し易いため色が豊富に揃うのが利点。
日本では中国製のウールフェルト素材が多く使われます。
品質に若干のバラツキがあるものの何しろ手頃、日本で数千円台で買えるフェルト帽は、中国製のウールフェルト帽体が使われることが多いと言っても間違いではないでしょう。
(もしウール帽体で高いものがありましたらそれはポーランド製ウールフェルトかもしれません、中国製に比べて質が良くなります)
ただ反対にデメリットもあります。
繊維素材の粗さが影響し、生地を薄くすると型崩れし易く安物は破れやすい。またホコリが付きやすく取りにくい、使っていくうちに毛羽立ちが目立つようになります。
一方、ウサギの毛からできた「ファーベロア」(ビーバーの毛が使われるのは最高級品)
ウールフェルトに比べファーベロアのほうが光沢やきめの細かさなどの点でランクは上の高級品。
ファーベロアの繊維素材(つまりウサギ)はウールに比べ毛足が長くて毛質も良く、光沢もあるので染色の発色が鮮やか。ホコリが付きにくく毛羽立ちも少ない。軽くしなやかでフェルトの目も細かいため型崩れしにくいのが特徴です。(一度伸びると戻らないため、加工が難しいという面もあります。)
そしてファーベロアのちょっとランクの上のものにスーパーベロアがあります。これは素材のウサギが養殖か野性かの違い。養殖ウサギより野性ウサギの方が毛足が長いので、それを使ったものが毛並みの良いスーパーベロアになるそうです。
日本でのファーベロア帽体の多くははチェコ製、ポーランド製。これらは平原地帯の広がる中欧諸国、ジビエ料理としてウサギを食べる習慣もあります。
伝統的に平原に住む兎を捕まえ、その肉を食用としその毛をフェルトに加工し、帽子などの品を作っていたということ。また寒い気候のため兎の毛足が長く育つという特徴もありました。
身近な動物を生活に生かす。
日本では鹿が衣食文化と深く関わっていたのと同じように考えて良いでしょう。
ウールフェルトとファーベロア。
どうぞ店頭でファーフェルトがどれほどの上質素材なのかを見て触って被っていただきたいと思います…といってもファーベロアを扱っているのは帽子専門店や百貨店、もしくは私のような帽子作家の展示会になってしまうかもしれませんが(←こっそりアピール)。
ウールとファーと両方を知っていただいて、それでも「好み」「予算」でウールをお選びになるのに反対するわけではありません。
ただウールフェルト「だけ」しか知らずにお被りになっているのはもったいない。誰かと顔を合わせた時、相手は帽子を含めあなたのお顔を見ています。顔周りの帽子です。「これしか知らない」で被るより、ピンからキリまで知っていただいてその上で選択していただければ。さらに自信を持って帽子をお被りいただけるのではないでしょうか。
私がこれから帽子に作るファーベロアが用意出来ました。毛足で素材がまた分かれます。大きいものはつば広の帽子用の「キャペ」、小さいものは「ベル」と呼ばれます。中を覗くと産地の表示、これらはチェコ製ですね。
布に比べて立体的な造形が豊かに表現出来る素材です。貴重な素材を無駄にしないためにも丁寧に考えて作ります。