染色家・柚木沙弥郎
染色作家・柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)氏。
染色作家とは言いつつも型染やその他水彩やガラス絵などの絵画作品も手がけ、絵本や版画、お面や人形などの立体作品も発表しています。
女子美時代の恩師。そして私が20年務めた染色工房の師匠とごく親しい間柄でもある柚木先生。プライベートでも帽子をお被りになっていることが多いのは帽子屋として嬉しいことです。写真集出版を記念して3日間だけの展覧会がギャラリーTOMで開かれているのに合わせ、展覧会会場で帽子について伺いました。
帽子についてどう思われますか?
「帽子は好きですよ。帽子はファッションの仕上げっていいますかね、大事なものですよ。」
とはいっても、街を見渡しても帽子を被っている人は本当に少ないんです。
「だけどね、帽子をかぶらないと完結しないと思うんですよ。姿としてね。
僕らの親の世代はね、みんな帽子を被ってたのね。いわゆるカンカン帽って、ああいう帽子は東京の人には合わないんですよ。頭の形が違うから。それを被ってたんだからすごいもんだと思って。」
三日間の展覧会なのでひっきりなしにお客さまがご挨拶に訪れ、残念ながらお話はここで終わりになってしまいました。
健脚だった頃は富ヶ谷の自宅から青山までは普通に歩いていらしたそうです。骨董通りを入ったところに私の染色師匠のお店があり、師匠を誘っては界隈のブティックを片っ端から覗いて回ったとか。お話は最後は尻切れとんぼになりましたが、おそらく「帽子の種類が僅かで選択肢は今より少なかっただろう時代でも、帽子を被るのがお洒落の仕上げ、もしくはマナーという習慣があったから(今から見れば)合わないだろう帽子でも皆が普通に被っていた」ということだったのだろうと推測しました。
素敵なメッセージを頂きました、ありがとうございました。
今年で94歳。
車椅子での搬入の際に「死ぬまで作品を作り続けたい」と呟かれたそうです。
今回は20点あまりの水彩画の展覧会で、そのどれもが瑞々しく透明感に溢れていました。これは私が一番気に入った作品。年を重ねてもこれほどまでに自由で新鮮な気持ちを持ち続けられるものかと驚くとともに、私もいつまでもそうありたいと心から思いました。
(2016年3月5日 渋谷松濤 ギャラリーTOM にて)