暮らしに関わる帽子

img_1033シルクの生地をたくさんお預かりしています。催事で親しくなったシルク専門ブランドさんとのコラボレーション用帽子を作るためです。その社長Kさんのお母さまに「誕生日プレゼントとしてシルクの生地で帽子を作って欲しい」とお願いされたのがこの9月。10月半ばの誕生日に間に合うようお届け、54センチという小さいサイズでしたがぴったりだったと大変喜んでいただけました。
Kさんからはここ1週間ほど連絡がありませんでした。出張かなとあまり気にもしていなかったところにこのようなメッセージが。
「(某日)母と六本木のイルミネーションを楽しみました。寒い日でしたが、母は車椅子でお気に入りの帽子を被って元気にやって来ました。イルミネーションを楽しみ、大好きな中華を食べて、大満足な一日でした。」
その三日後にお亡くなりになったそうです。
「97才の大往生でした。母との別れは寂しいですが、満ち足りた顔で逝ったので私は悲しまない事にしました。帽子の思い出は永遠です。母の楽しい人生の最後を彩って頂き感謝しております。ありがとうございました。」
(メッセージは要約しました)

「誰かの暮らしの幸せな部分に間接的にでも関わっていけたら嬉しいなぁと願います」と書いたのは、昨年のブログ「帽子について思うこと」の最後。奇しくも1年後、このようにお二人の最後の思い出に私の帽子が関わることになるとは。
お母さまにはもっともっとお元気でいてもらって、たくさん帽子を被ってお出掛けして欲しかった、というのが本心でもあります。私の帽子はまだ新品同様でしょう。
しかし「私の帽子が誰かの人生の節目に立ち合った」というこの出来事は、自身がどういう意識を持って帽子を作っていくか、を改めて考えるきっかけにはなりました。
漠然と「この生地でこんなデザインにしたら可愛い帽子が出来ました!」でももちろんいい。加えてもう一歩二歩踏み込んで「こんなライフスタイルのこんな人にこんなシーンで被って欲しい」という、そんなイメージで作り込むのもひとつの作り方かと。

しばらく催事はないので制作時間はたっぷり、思ったことを少しでも形にする時間にしたいと思います。

その帽子の写真を撮り忘れたのは残念でした。しかし次回Kさんとお会いする際には「母が大好きな帽子を被って嬉しそうにしている写真を見て下さい」とのこと、もちろん喜んで拝見致します。

野村あずさ

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